今回取り上げるのは小児の「滲出性中耳炎」です。
まず、滲出性中耳炎とはどういうものでしょうか?
それは「鼓膜に穿孔がなく、中耳腔に貯留液をもたらし難聴の原因となるが、急性炎症症状すなわち耳痛や発熱のない中耳炎」とされています。中耳(腔)というのは耳の構造の一部で鼓膜の内側にある空洞であり、音を伝える部分です。ここに滲出液が貯留すると音を伝えにくくなり、症状として「耳のつまり感(耳閉感と言います)」や「聴力の低下(音を伝える部分が障害されているので伝音難聴と言います)」が生じるのです。
では、なぜ中耳に滲出液が貯留するのでしょうか?
それは急性中耳炎と同じく、耳管(鼻の奥と中耳を繋げている管のことです)を経由しての感染が原因とされています。例えば鼻汁中の病原体が中耳に微量に侵入した場合、中耳粘膜はそれを排除しようと反応します。これを免疫応答と言います。この時、免疫を担当する細胞から様々な物質が分泌され、それらは中耳の粘膜上皮細胞を障害すると共に粘液を分泌する細胞を増加させます。その結果、中耳粘膜の分泌が過剰になり浸出液が貯留します。さらに侵入した病原体によって耳管が炎症性に肥厚・狭窄した結果、滲出液の排出が妨げられてしまいます。これが中耳に滲出液の貯留する、滲出性中耳炎の生じる仕組みです。
それでは次に滲出性中耳炎の原因となるものをいくつか挙げてみます。
まず鼻・副鼻腔炎です。これは病原体を含んだ鼻汁が存在するため、それが耳管を経由して中耳に侵入する危険性が高くなるからです。
次にアデノイド増殖症という疾患が挙げられます。アデノイドとは鼻の奥にあるリンパ組織の固まりで、咽頭扁桃とも呼ばれます。この組織は4~6歳で最も大きくなり、思春期を過ぎるとほとんど消失するのですが、肥大(増殖)した際に中耳に侵入する病原体の足場となる場合があります。
また、鼻すすりも原因の一つに挙げられます。鼻をすする癖のある小児の耳管は脆弱で、常に開放状態になっています。この時に生じる耳閉感や自分の声が大きく聞こえる(自声強調と言います)のを取り除くため鼻すすりを行った場合、陰圧が中耳にまで及び、且つ耳管がつぶれます。こうなると鼻由来の病原体が中耳に送り込まれた上、耳管から排出されなくなるため滲出性中耳炎を発症するようになるのです。
もしお子様が痛みは訴えていないものの聞こえが悪くなっていたり、耳閉感を訴えていたりしたら滲出性中耳炎を発症しているかもしれません。その時はぜひ当科を受診してください。